薔蜜。


  • 朝起きると豪雨。NHKのニュースでこれは台風十五号で、台湾直撃と知る。
  • 朝飯を食い、いちど出掛けて土産物を買物しに行く。荷物を抱えて宿に戻り、えいやと再び出掛ける。
  • 「中山」まで歩いて地下鉄。故宮博物館を目指す。旧台湾神社跡の大飯店を電車の窓から眺める。鬱蒼とした森が広がっていた。
  • 「士林」站まで行き、タクシーに乗って故宮博物館に。入口の前に警備員がたむろしていて、何か話し合っている様子。それを窺っていたタクシーの運転手が、「あ、休みだ。」と呟く。なるほど貼紙がしてあり、台風で臨時休館とのこと。目元が六平直政にそっくりな運転手が、「すいません……」と云う。そのまま駅に戻って貰う。
  • MRTで「新北投」に。「温泉博物館」もやはり臨時休館。その貼紙で知ったのだが、この台風の名前は「薔蜜」と云うらしい。
  • 古い日本の銭湯のような風情の「瀧乃湯」に。中に入ると、さらに驚愕。成瀬巳喜男の『浮雲』に出てくるような古風な風呂。どろりと濁った湯は少し熱く、雨で濡れた肌にぴりりと気持ちいい。一緒に風呂に入っていたおじさんと、入口の脇の庭(井戸もある)に張り出した屋根の下で腰掛けて、雫の滴る木々と、ざあざあと降り続く雨を眺める。ふと庭の隅の木の下を見ると、何か石碑らしきものがあり、見に行くと、「皇太子殿下御渡渉記念」と刻まれている。大正時代に作られたものらしく、と云うことは皇太子殿下とは昭和帝のことで、英国留学の帰途だろうか? しかし、旅の醍醐味はじぶん失いだなあとつくづく思う。
  • もうこれはたぶん閉まってるんじゃないかなあと思いながらMRTの「台大醫院」站へ。嘗てNHK台北放送局だった「台北二二八紀念館」に行くと、案の定、休館。外に貼ってあるポスターをみると、日本統治時代の台湾各地にあったNHKの放送局の建物に就いての展示を行っているそうで、非常にみたかった……。
  • しかたなく、公園の外をぐるりと歩き、大変メガロマニアックな「旧総督府」の建物を外から眺める(憲兵隊のパトカーが止っていて、大雨のなか、こいつは何をしているんだ?と云う顔で睨まれた)。
  • 「中山」まで戻り、一昨日、旨いマンゴーミルクを飲んだ小さな店の前まで行くが、きょうはやっぱり閉まっていて、小さな料理屋で飯を食う。たぶん私と同じぐらいのお姐さんがやっている店で、台風なので客もこないのか、子どもとテーブルの上で絵を描いている。お姐さんに「お腹すいてる?」と訊ねられたので、腹を掌でぎゅーっと抑えて、腹ペコです、と、疲れきった表情をしてみせると、コレとコレがお薦めだよとメニュウを指さすので、そのまま註文する。大皿の上にいろいろなおかずとご飯が乗ったプレートと、餃子を食べる。成るほど、旨い。食べていると、最初に姐さんが店を出て、やがて子どもも何処かへ行ってしまい、店に、独り取り残される。おいおい東洋鬼子を舐めるなヨ、食い逃げしちゃうゼと呟いてみたのだが、食べ終わって、セルフサーヴィスのジュースを飲んでも、なかなか親子は帰ってこない。探しに行ったほうがいいかな、と思った頃、ようやくふたりで手を繋いで帰ってくる。
  • 台北牛乳大王」に入ってパパイアミルクを飲み、テーブルに突っ伏して、少し眠る。
  • あんまり雨がすごいので取りあえずいちど宿に戻ることにして、《三越》の前でタクシーを拾う。いつもながらの豪快な運転で、あっと云う間に着く。台湾のタクシーのこの豪快ぶりが好きだ。
  • ガイドブックに、先日「台北之家」でその品揃えに感心した「誠品書店」の大型店の住所が載っているのを見つけ、タクシーで出掛ける。目の前で下ろして貰うが、閉店した様子。
  • いよいよ諦め切れず携帯で、他の誠品書店の大型店を調べ、市役所の前にあるのを知り、「忠孝復興」から地下鉄に乗って出掛ける。が、此処もまた台風で臨時休業。よし、ならば、おとつい行った台北の地下街の誠品書店ならどうだ!?と地下鉄で移動するが、ちなみにこのときには既にそれが気にならないほど靴は中までぐっしょりである。なぜ誠品書店にこだわるかと云えば、独特なセンスのTシャツを買っておきたかったからだ(一昨日は欲しいサイズがなかったので買わなかったのだ)。嗚呼、やっぱり臨時休業。よし、ならば映画をみよう、『海角七号』と云う恋愛映画が八時からやっていたはずだ。「台北之家」の前までゆくが、台北市のお達しにより、台風のためきょう明日は臨時休館と紙が貼ってある。全滅。
  • とぼとぼとホテルに歩いて戻る。折角なので台湾マッサージの店に行く。昔日は福原の超高級店でした、と云うふうな佇まいのお店で、少しどきどきしていたのだけれど、至って健全で、ぐりぐりごねごね。柚子と電話で話す。
  • 『追女三十六房』と云う映画をやっていて眺める。かなり面白い気がしたが、途中で眠ってしまったみたいだだだだだだだだだだだだ……。