• シネマ神戸でシャンタル・アケルマンの『オルメイヤーの阿房宮』を見る。レイモンド・フロモンの撮影を含め、何もかも素晴らしい。《トリスタン》の前奏曲が流れるなか鬱蒼としなだれかかる密林の河を遡る船の甲板のへりで、煙草をくゆらす褐色の肌のイゾルデ。二隻の船が行き交う息の長いショット、男の干からびた顔とその上をちらちらする陽光や涙の筋の動きを見つめる静かで緊張したショット、夜の街を歩く少女を横から追うシークェンス、本当にいい。家から逃げる映画であり、逃げるために一度帰ってくる映画であり、家に取り残される映画でもある。
  • 続いてシャンタル・アケルマンの『アンナの出会い』も見る。これは出張先から家に帰ってくる映画。ヘルムート・グリームを久しぶりに見てちょっと嬉しくなる。女の愛人が密会先で体調を崩す。ホテルを出て、タクシーに乗って、薬局に行って薬を買うまでを追いかける。なぜ摘まんでしまわないのだろうかと思うが、それはその往路での、車中の女の顔の上に滲み出す涙を捉えるためである。それが抽出されるまでには、時間がかかる。その時間をアケルマンは捉えようとする。
  • 商店街を湊川に遡って、上崎書店に寄ってから帰路。