• アレックス・ガーランドの全8話のテレビ・シリーズ『DEVS』で、最も好きなのは、寝室の椅子をめぐるシークェンスだ。
  • 恋人たちの寝室の片隅に、背もたれの低い一脚の椅子が、ベッドのほうを向いて置かれている。寝る前に脱いだ服を、とりあえず投げかけておくためのものだ。
  • 殺された恋人はロシアの諜報機関から送り込まれた産業スパイだったのだが、彼を使役していたらしいエージェントは、「もしもこれ以上の真実が知りたいなら」と、接触してきた彼女に言う。「あなたがあの椅子を窓から離したとき、こちらから連絡する」と。
  • ただの椅子が、そのままの姿で、不吉なサインに変化する。椅子も彼氏もこの部屋も、ふたつの状態の重なり合う、とても不安定で不気味なものになってしまった。いつからそれはそのようなものに変ってしまったのか。あるいは彼女にはずっと気づかれずに潜んでいたのが、たまたま顕現しただけなのか。いつからこの部屋には暴力が、或いは暴力を誘発する何かが潜んでいたのか?
  • このとき彼女は、ノートを破った紙に「ファック・ユー」と書いて窓に貼ることで、ロシアのスパイの言葉によって、二重にさせられてしまった椅子の不安定を辛うじて収束させる。窓に貼られた「ファック・ユー」は、ドラマの後半で再び彼女を救うことになる。