第三帝国老衰史

  • 試写で『ヒトラー最期の12日間』*1を観る。いやはや、大変に骨太の反戦映画。作り手が、ちゃんとしたものを撮ろうとしている意識が、すみずみから伝わってくる。何しろ、ナチズムがドイツ・ロマン主義レーニン主義の混血児だと云うのが、ちゃんと判るようになっているんだもん。ところで、欧米では、この映画がヒトラーを美化しようとしていると猛攻した新聞があるらしいが、彼等は歴史の本を読んだことがないのかね。此処でのヒトラーの造形は、充分にバランスが取れている。それどころか充分に批判的なスタンスで撮られていて、寧ろ私のほうが余程、このチョビ髭の伍長殿を、もう少しまともな人間だと認識していたくらいで、だから映画を観ながら幾度も「コリャア随分な狂人だわい」と苦笑した次第。
  • 追い詰められた老独裁者を具体化させた、ブルーノ・ガンツの演技はお見事。さすがベルリンを見つめ続けてきた歴史の天使のなせる技、と云うべきか。
  • ヒムラーだのゲッベルスだのシュペーア(特に彼の描写は要を得ていて見事。総統官邸の地下壕でベルリン大改造計画の模型をふたりで眺めるシーンも出てくるし、砲撃でボロボロになった、自作の総統官邸の前で佇む名場面もあり。ローマ建築の模倣なのに、本物のそれと違って、廃墟と化してもまるで美しくないキッチュっぷりこそが泣かせる)のソックリさんが続々と登場してくるのが愉しい。ところで、この映画の真の主役はエヴァ・ブラウンとマグダ・ゲッベルスではないかと思う。いや、ほんと。
  • グズグスに崩壊してゆく巨大な組織の姿と云うのは、何でこんなに後世から眺めると興味が尽きないのだろうか。対岸の火事を見物する愉快さなのか、それともいつの日か、それをじぶんが経験してしまうときに衝撃を緩和するためなのか。
  • しかし、武装親衛隊と云うのは、何であんなに薄汚れても恰好良いのかねェ。寧ろその軍装が薄汚れれば薄汚れるほど恰好良い。
  • 佐藤大輔の『遥かなる星』第3巻(当然と云うか何と云うか未完)を読み進める。この巻をスキャンする私の脳内変換装置は、これまでのように古い日本映画ではなく、ゆうきまさみの漫画版『機動警察パトレイバー』をベースに置換を行ってしまうのだった(ちょっと『トップをねらえ!』も混じるけど)。ぶちまけるが、私は『遥かなる星』と『侵攻作戦パシフィック・ストーム』さえ佐藤大輔が完結させてくれたなら、『RSBC』も『皇国の守護者』も、すっぱり諦めていいとすら思っている。
  • 真夜中、雨が降る。壊れた傘を会社から引っ張り出して、終電で帰宅する。
  • 拙宅の最寄り駅の無料駐輪場に、私は毎朝、自転車を留めている。自転車の処まで来ると、ハンドルに紙が、まるでお神籤みたいに結んである。雨に濡れながら、暗い野ざらしの駐輪場で開いてみるが、何も書いていない。たぶん柚子が、私のは何の変哲もない自転車なので、夜の駐輪場でも見つけやすいように結んでくれたのだろうと判断し、再びハンドルにそれを結わえた。

*1:ヒトラー〜最期の12日間〜』公式サイト http://www.hitler-movie.jp/