少しフシギでSF

  • 会社から少し離れたところにある古本屋は、一杯になると五百円の金券として使えるポイントカードを発行している。それが財布に一枚残っていて、駅からは遠いところなので、もう来ることもないだろうと思い、安い棚を漁って換金。
  • 夜、事務所で独りで残業しているとU君から電話あり。あれこれと話をするが、眠りながら見る夢の話になる。
  • U君の見る夢は、兵士として戦場に散るなど、生きるか死ぬかの輪郭がくっきりとした、苛烈なものが多いそうだ。
  • だが私の見る夢は、会社で社長と口を極めて罵りあったり、初めての古本屋でずっと捜していた本を見つけたり(ネットで古書を注文すると云うのもあった)、壁を前にどう進めるか考えが詰まってしまった批評や小説などの次の一手を鮮やかに思いついたり(朝起きてすぐは、まだそれは保持されている。慌てて書きとめて霧消を防ぎ得たこともあるが、毎朝の強いて意識せずに行われる一連の行動をこなすうち、あとでサルヴェージしようにもうまくゆかないことが大半であるのは、実に惜しい)、時折、性的ないやらしい夢も見るが、どれも堅牢な現実がベースになっていて、ただし総てが微妙にズレているのだ。それほど強烈な言葉で社長とは応酬しないし、見つからない本はやはり未だ見つからないし、回天のようなひらめきは指から零れ落ちる。ちなみに、夢の中の性交の相手の顔は、暗闇の中に融けていて判らない。
  • しかも、夢の全篇を覚えていると云うことはなくて、いや寧ろ、そもそも夢を見ている最中から、脈絡の途絶えがちな、燃え残ったフィルムの断片だけを映写しているような、そういうふうな夢を、どうやら私は見ているような気がする。
  • ところで、私は夢精を経験したことがない。早いうちに手淫を覚えてしまった所為だろうか、もしそれが原因ならば、かえすがえすも惜しいことをしたと思う。とてつもなく気持ちいいらしいではないか。