『ザ・シューター』を観る

  • JR芦屋駅前のアシヤ書房が閉店していた。シャッターに、先月末で店を畳んだと貼り紙がしてあった。りずむぼっくすの芦屋店も春に店を閉めたし、これで芦屋へ来ることもなくなった。
  • 西崎憲の編訳による『エドガー・アラン・ポー短編集』を読了。
  • 以下に引く、「ウイリアムウイルソン」のなかの一節に、ポーの小説の総ては、すっぽり収まる気がする。

教室の一方の突き当たりには、水を張った大きなバケツがあり、反対側の端には途方もない大きさの時計があった。

  • 黒い水と赤い血の液体と、迷宮のような建築や機械の間で、振り子のように揺れ動いているのが、ポーの小説なのだ、と、能書きを垂れてみることもできるだろう。
  • 西崎憲の訳は、とても良かった。文体の変化の具合が素晴らしい。同氏による巻末のポーの「小伝」と作品の「批評」も良い。ポーにじかに触れるのは小学生のとき以来だが、当時よりも今のほうがじっくりと愉しめるみたいだった。
  • ジム・トンプソンの『残酷な夜』を買い、そのまま読み始める。
  • スターバックスでキャラメルフラペチーノ(エクストラホイップ)を飲みながら読み続ける。うーん、めちゃくちゃ不穏で不安定で面白い。
  • 現代日本文学の書き手たちとはすっかり縁遠くなり、新刊が出ると買い、そして、読む日本人作家は片手で充分に数えられる私にとって、現代日本の作家とはすなわち、海外文学の現役の翻訳家たちのことに他ならない。
  • ドンパチが派手に出てくる映画が好きなので、ミント神戸のレイトショウで『ザ・シューター/極大射程』*1を観る。
  • マーク・ウォールバーグが演じる米軍の狙撃兵だった男が主人公で、米政府の一部勢力の陰謀に巻き込まれて、それに反撃すると云う筋なのだが、だからこの映画は、銃器の演出に自信が溢れていて、それを支えとして、とても見事な活劇とヴァイオレンスが展開される。大盤振る舞いの肉体破壊シーンも、とてもよくできている。
  • にもかかわらず、この映画はひどくカタルシスから遠い。
  • そして、これほど現在のアメリカの混乱を表現した映画を、私は他に知らない。
  • 自由と民主主義の、デモクラシーの精神を口にする奴らは皆ひどい悪党で金持ちで、貧乏だったりマイノリティだったりする人びとは、狙撃手だった主人公を含め、銃と暴力からできるだけ遠ざかりたいと思っているにもかかわらず、デモクラシーのシステムは、ぬけぬけと狡猾な悪党たちを裁くことができず、結局、銃と暴力ぬきではデモクラシーは守られない。
  • しかも、「「愛国者だろ?」と云われると「御命令は?」となっちまう」と語る元軍人の主人公は、同じ兵隊でもヴェトナムの彼らとはひどく違っていて生真面目で、だから、カウンターカルチャーなどの、彼を救う「外」の世界はない。
  • 理屈抜きにスカッとすることをみずからに禁じている、そういう活劇しか作れないと云うことが、今のアメリカの気分なのだろう。