『アンチクライスト』をみる

  • 朝、洗濯物を取り込み、洗濯機を廻してベランダへ洗濯物を干す。空気が暖かい。その所為もあるだろう、とても出たそうにしているので、「しま」を少しだけベランダへ出してやる(ずっと私が見張っているのだけれども)。
  • 梅田まで出て、テアトル梅田で、ラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』(彼と同じデンマーク出身の作曲家ルーズ・ランゴーも同名のオペラを書いている*1)をみる。ヘンデルの《リナルド》のアリアが流れる開巻の「プロローグ」は、なるほど確かに美しい絵(撮影はアンソニー・ドッド・マントル)なのだけれど、高級家電のCFのような美しさだと云ってもよいのである。それからあとの痛そうなショットには全部丸い霧のようなボカシ(久しぶりにみた気がする)が入っている。
  • トリアーの映画は、それなりにみていて、決して嫌いな作家ではないが、これはずいぶん、つまらない。つまらなさすぎて笑える!と云うことはできないつまらなさ。黒沢清をちゃんとみて勉強しなさいと思わず云いたくなる出来。自作の『ヨーロッパ』でもよいのでじっくり見直すべきである。辛うじて、シャルロット・ゲンズブールウィレム・デフォー(と狐)が、囁き、喚き、呻き、呟きする彼らの声の響きの豊かさがつくりだす音像こそが、この映画を支えている(トリアーは、よい声を選ぶことに関して的確である。ただし音楽そのものの演出は中途半端で、重たくてノイジィな音をつけるなら、もっとしっかりやるべき)。
  • 幾つかの凄惨な(と思われる。ボカシが入ってるので細部は想像するしかない)場面を経て愈々、夜空を黒板がわりにして、図解つきで秘密が明かされるのだが、それに対して、傷を負って息も絶え絶えのデフォーが、的確すぎる突っ込みを入れる台詞で爆笑。そして最後に、ロシアの某監督へこの映画を捧ぐと唐突な献辞が出てきて、再び爆笑。本人が知ったら、なぜこれを私に捧げるんだ!?と泣くだろう。動物の扱いに共感するものがあったのだろうか。三匹の動物たちのマペットは、かなり可愛い。そして、女の濡れた髪こそが、森なのである。
  • ところで、南波克行氏の『アンチクライスト』評*2が凄く面白いので、ぜひ映画をみてから読むのを薦める。
  • フォン・トリアーの新作『メランコリア*3キルスティン・ダンストをヒロインに据えて、今年の五月にはもうデンマークで公開らしく、かなり気合の入ったものになっているようなので、期待している。つまらなかったら名前から「フォン」を去勢するぞ(ところで『アンチクライスト』の前作のコメディは、本邦では公開されないのか?)。
  • 丸善ジュンク堂やカッパ横丁の古本屋を覗いて、そのまま三宮に出る。きょうはアルバイトが休みなので、柚子と待ち合わせて、トルコ料理の店で晩御飯を食べる。のんびりした味で、決して悪くなかった。
  • 帰路、少し雨が降っている。