• 夕方から出かけてシネマ神戸でダニエル・シュミットの『天使の影』を見る。ファスビンダーの戯曲《ゴミ、都市そして死》を映画化したもの。親子や恋人たちの情愛もシスターフッドの紐帯も何もかも、貧困と格差と暴力によってずたずたに分断される。その渦に巻き込まれるように疲弊して、死を冀うようになるヒロインを、人形じみた虚ろな眼で、イングリット・カーフェンが演じている。女装の歌手であるその父親は、どうやら嘗てテクノクラートとしてユダヤ人の大量虐殺にかかわっていたようだが、それを悔いている様子はまるでなく、やがてファシズムは勝利すると嘯く。この映画(もとの戯曲)の反ユダヤ主義的なニュアンスはこの父親に顕著な戦中派への告発にあるように思うのだが、これは大丈夫なのだろうかと心配になる。ふとベルンハルトを思い出して、まだ『樵る』を買っていなかったなと思う。埃を被ったちょっと古風な装いのきれいな女たちがとても簡素な舞台あるいは剝き出しの機構の上にいるような世界を、レナート・ベルタのカメラがほんの少しずつ動きながら捉えるのがとてもいい。ダニエル・シュミットも纏めて見なおしたい。
  • 帰り道、虫の鳴き声が家の近所でもするようになってきた。大島渚のDVDをがさっと引っ張り出してきて、発表順に並べる。
  • 《アラベラ》を出してきてぼんやり聴いている。デラ・カーザとローテンベルガーの歌う第一幕の二重奏の美しさに陶然とする。