日雇。

  • 昼、きのう柚子が買っておいてくれたパンを食べてお茶を呑む。
  • ヤノフスキの振る《ヴァルキューレ》の三幕の後半を聴く。洗濯機を廻して、洗濯物をベランダに干す。
  • きょうはアルバイトは九時半からなので、それまでの間、夕方から少し出かける。自転車で家を出て、職場の前に止めて、その近くの駅から電車に乗る。すると、職場から携帯に連絡があり、きょうは休みになる。別の日に振替になるから、給料は減らないので、構わないのだけれど。
  • そのまま梅田まで出て、古本屋とCD屋をぷらぷらと。どれも随分安く買うことができて喜ぶ。
  • 皆帰って、がらんとしている職場の前から自転車に乗り、帰宅する。音でだれが帰ってきたのかがちゃんと判る「しま」が、扉の向こうでマァマァと鳴いている。
  • さっそくクライバーが振る、1975年バイロイトの《トリスタン》の第一幕から聴く(けっきょく朝までに全部聴いてしまう)。Golden Melodramから出ている1974年のものは、なるほど素晴らしい燃焼度と瞬発力なのだが、年代からすると信じられないくらい録音の状態が悪かった。しかし、1975年のものは録音の状態もとてもよい。冒頭から、ぎらぎらと煽ってゆく。しかし決して暑苦しくはない。それぞれのパートの音の輪郭はくっきりと際立たせながら、俊敏なひとつの流れをつくってゆく。蕾がほどけ、やがて、豪奢な花が咲き誇るまでのさまを早回しにしたもので、眺めているようなふう。しかし、第二幕の中ほどの恋人たちの睦言のあたりや、終幕の《愛の死》などに於ける、微細な官能の震えを、じっくり拡大鏡でみせるようにするのは、むずむずといやらしい。カール・ベームには決してできない表現だろうと思う。
  • 暫くすると柚子も帰ってくる。キウイとバナナをスライスしたものをヨーグルトとあえて食べて、お茶を呑む。
  • 洗面台で水を呑んでいた「しま」が、そのあとで、定番の「ヤドカリごっこ」をしていた。私たちがふたり、電燈を消して二階へ上がってしまうと、やがて「しま」もやってきて、私の部屋の床の上で、ごろりと横になって、眠る。
  • 五時過ぎになると、「しま」は起きだして、階段の下へ降りていって、鳴き始める。柚子はまだ眠っているから、私を呼んでいるのである。私は降りていって、洗面所の扉を開けて、水道の蛇口をちょっとひねり、水を出す。洗面台に飛び乗った「しま」は、満足するまで水を呑んでから、やがて、後ろで待っている私のほうを振り返り、洗面台からぴょんと下りる。蛇口をしめて、私は眠る。