デイヴィッド・リンチの『2007年内宇宙の旅』

  • 試写でデイヴィッド・リンチの『インランド・エンパイア*1を観る。何なんだこれは!?と叫びたくなる大傑作であり、何なんだこれは!?と叫びたくなる大怪作。リンチの最高傑作だし、フェリーニのそれみたいな見事な女性映画だし、今年の私のベストワンはこれでほぼ決まり。
  • 延々たる地獄巡りのあと、すさまじい浄化が訪れるのだが、思わず、心底から感動してしまった。
  • 夜、眠っているとき、例え同じベッドの上、同じシーツのなかでも、暗闇に包まれて、私たちが見る夢は、各々の頭蓋骨のなかに閉じ込められて浮かんでいる、脳髄が生み出していて、それは各人だけが見ることが----目を閉じているのに「見る」と云うのも変な話だが----できる。隣のひとが見ている夢を、私たちは決して見ることができない。
  • 映画館の暗闇のなか、映画を見る私たちは、前方のスクリーンを凝視しながら、光の残像を各々の脳内で再生している。それはだから、目を開けながら眠り、夢を見ている、と云うことだ。そしてやはり、隣のひとが見ている夢を、私たちは決して見ることができない。
  • だから、『インランド・エンパイア』は、悪夢のような映画、なのではない。そもそも映画とは原初から、悪夢そのものだったのだと云うことをまざまざと思い出させてくれる。つまりこれは、映画の原初に限りなく遡行しようとする映画なのだ。わけが判るとか判らないとか、そんなこと、どうだってよくなる映画なのだ。
  • そして、いちど観たらすぐにもういちど観たくなる映画でもある。
  • 音楽と映像の重ね方が素晴らしい。ゴダールのソニマージュの実践と乗り越えが此処にある。
  • 兎に角、ぜひご覧になるべき映画。DVDで済まそうなんて考えずに。映画館で観ることを作品そのものが要請している映画なのだから。
  • 村上春樹の『アフターダーク』を、ふと思い出した。あの小説の、もっとずっと先まで行ってしまっているのが、『インランド・エンパイア』なのだ。
  • 裕木奈江、ものすごい役で出ている。