ネコ踏んぢやつた。

  • 昼前に「しま」と一緒に起き出す。階段を降りていると、手塚治虫の漫画のキャラクタみたいな「むぎゅっ」と云う声が足の下からする。「しま」も私と同じく階段を降りていたのに気がつかなかったのだ。吃驚した彼は一目散に階段を降り、食卓の下に潜り込む。大丈夫だろうかとひどく焦るが、私に脅えるふうでもなく、すぐにカリカリを食べ、水を飲み、けろりとしたようすで台所を歩き回っているので、ほっとする。
  • めしを食ってから二階の自室に戻り、書き物をしているが、幾ら待っても「しま」が上がってこない。彼は淋しがり屋なので、ひとがいる近くで寝起きしたり、遊んだりするのだ。まさか泡を吹いて倒れているのでは……と思い、急いで下に降りると、食卓の椅子の上で顎を座布団にくっつけて座り、じろりとこちらを睨む。
  • 安堵して、「しま」を抱っこして二階に上がろうとすると、階段の途中でいきなり、ぎゃおぎゃおと泣き喚き、私の腕のなかから跳びだすと、そのまま柚子の部屋に逃げ込んだ。
  • 成るほど、さっき階段で踏みつけられたので、階段の暗がりが怖くなって、二階へ昇ってくるのを躊躇していたみたいだ。
  • その後、梱包材(ぷちぷち)の切れッ端を丸めてセロテープで止めた、「しま」のお気に入りのおもちゃを作って投げてやると、そいつを追い回してぶんぶん駆けていたので、ようやく安心する。
  • この頃は磯崎新の作品集ばかり買い漁って、ぱらぱらと眺めているのだけれど、磯崎の建築の美しさが、朧げながら、やっと判ってきたような気持ちになっている。錯覚でも構わない。届いたばかりの磯崎本の端に、「しま」が歯を立てている。
  • 夕方、アルバイトから帰宅して家の扉を開けると、「しま」が上がり框のうえで、前足を揃えて、ちょこんと端坐して待っている。
  • しばらくして柚子が帰宅した折りも、玄関でガチャガチャ音がし始めると、ぴゅっと走っていった。
  • 段ボール箱の整理をしていたら出てきた、ホーレンシュタインがBBC交響楽団を振ったブルックナーの九番を聴いている。たぶん同時に買ったはずのホーレンシュタインの「千人の交響曲」の演奏があんまり強烈だったので、こちらをきちんと聴き取れていなかったじぶんの耳の許容の幅の少なさが嘆かわしい。重心が低くどっしりとして構えが大きく、しかし非常に細部まで神経が行き届いて、響きはとても精緻でクリア。ベタベタっとしたところがなくエッジが効いたブルックナー。ちょっとマーラーのような響きである。とてもいい。
  • マウリツィオ・カーゲル*1が逝去していたそうだ……。