• ジョージ・マカーリの『心の革命』を読んでいる。シャルコーなどに比べるとフロイトなんかまるで端役で、あとはヘルムホルツぐらいしか私は知らない一九世紀の独仏の科学者たちの脳と心の探究が開巻からずらりと紹介されてやがて途方に暮れ始めるが、この分厚い本は、もう「私たちは失ってしまった世界」つまり「さして遠くもない世界だが、二〇世紀ヨーロッパの大量殺戮でより遠くなってしまった世界」で戦わされた「一連の過熱した知的論争の歴史」まで立ち戻ることで、その中から飛び出してきた精神分析というムーヴメントが、果たしてフロイトという「一人の人物の伝記の問題」を超えて、他人の心という「主観性に関する客観的な科学」の創出の試みとしての可能性を現在も保持しているのかどうかを「吟味」しようとしていることを思い返して、湯船でページを繰っている。