• 今日から封切りの『ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』を仕事のあとに見られるのが判ってチケットを押える。久しぶりに、最前列のど真ん中の席を取った。今日はJLGへの弔いの焼香のようなものなのだから、スクリーンと私の間に、誰も入れずに見たかったのだ。静止画がずっと続く。絵画を眺めるように、画面にイリュージョンを求めてあちこちに眼を走らせる。やがて、画面の中の白いフレームはCanonの写真用紙の裏面であることが判る。これを支持体にイメージがコラージュされている。これは映画というよりは幻燈なのだろうか。しかし、サウンドトラックは盛んに動き続けている。無音ではない。スピーカーからは音がないという強い音がびりびりと鳴っており、映画館の中を震わせている。やがてベートーヴェン弦楽四重奏曲が、ショスタコーヴィチの《死者の歌》が耳を聾する。ロシア語の響き、それにフランス語で抗う女の声。パンデミックとロシアのウクライナ侵攻の蛮行の只中で、JLGは死んだのだった。『アワーミュージック』からの引用もある。眩いばかりに美しい静止画のショットもあった。サンローラン社のカネで作る映画の構想を語るJLGの声はもうすっかり老いて乾いている。アーレントの名前が出てくる。JLGの死後ほぼ一年後に始まって今も終わらないガザでのイスラエルの虐殺を想起せざるを得ない。愈々、JLGのグルーヴが身体の中に染み渡ってきた瞬間、ふっつりと「最後の映画」は終わる。「生者? 私のこころからの愛情を思い出にとめよ。死者? 神、彼らの魂を守り給え」(シャルル・プリニエ『偽旅券』)。パンフレットはまだ売っていなかった。
  • 雨は降っていないが夜はまた寒い。本屋がまだ開いている時間だったので立ち寄る。帰宅して柚子と晩御飯を食べて、眠る。