最強の「小説」擁護本

  • 佐藤亜紀の『小説のストラテジー』読了。何ともブリリアントであり、かつ内容が充実していて非常に勉強になる。読後、再びぱらぱらっとめくってみて、飛び込んでくるのはこんな文章だ。

一篇の言語芸術作品を読む都度、読み手はその作品を再編して新しいものを造り上げると同時に、自分自身の言語体系を更新することになる。言語芸術とは読み手に対するそうした挑戦であり、読み手はその挑戦を受けて作品を読み替えつつ、自分自身の言語を変質させる。読む前と同じ作品はそこには残りませんし、読む前と同じ言語のあり方ももうありません。作品を変質させつつ、自分の言語をも変質させる。そこに、言語芸術享受の創造性があります。とすれば、書き手と読み手の言語ギャップこそ、享受の創造性を生み出すものだと言うことができるでしょう。

  • その他、ドストエフスキーとオペラ、メロドラマとの共通点や、ナボコフの怖ろしさ、不気味さを論じた「西瓜割り」などが見事。文藝に興味をお持ちの方は、ぜひいちどお読みになるべき。
  • 魔の山』を、第六章の「雪」の手前まで読み進める。
  • どうでも良い話だが、『週刊文春』の映画欄、おすぎの批評はいつ読んでも的外れ。『グエムル』を論じて「シリアスとギャグのシーンの齟齬が気持ち悪い」(大意)って、それがあの映画の最大の魅力のひとつではないか。映画と云う表現を、物語と主張を他人に飲み込ませるためのカプセルだと思っているのが、おすぎの最大の過誤だ(怒)。